罪状は白紙、けれど死刑宣告、冤罪にはあらず 「大丈夫? 平気かい?」 「う、うん…。」 覗き込んでくる男は、眉を八の字に歪めている。 印象は違うけれども、確かに顔形は成歩堂龍一に間違いは無い。夢でも見ているのかと思ったが一向に醒める気配もなく、響也はこの現象を把握しきれずにいた。 その為か、治まらない頭痛と目眩に、成歩堂が自身がその症状に襲われているが如く顔色を変え、『心配だ』と騒ぎ立てる。そんな成歩堂を持て余したらしい御剣は、ふたり纏めて響也のオフィスに放り込んだのだ。 不器用な触れ方で、成歩堂の指が響也の髪を撫でてくる。 「…膝枕、もういいよ…。」 女性のものとは違う固い太股の上に乗せられた頭は、ただ気恥ずかしくて身体を起こそうとした肩を押さえつけられ、再びソファーに沈められた。 「駄目駄目。全然顔色良くなってないじゃないか、絶対働きすぎだよ。ほら此処、隈が出来てるし…」 無骨な男の指が、目尻をそっと撫で上げる。大きく波打った心臓に、男がキョトンと表情を変えた。そうして、目を細めて響也を見つめる。 「ホントどうしたの? 今夜は反応が可愛いなぁ。」 耳元で囁く類の声では無かったし、真っ直ぐに向けられる成歩堂の表情は、隠しようもなく楽しげに微笑んでいる。響也が見慣れた、何処か距離を感じさせる緩い笑みとは違う。 「僕、変かな…? 普段と違う?」 「え?や?その…。」 後ろ頭をガシガシと掻いて、成歩堂は困ったように視線を逸らした。 「昔…ね。捏造騒動があった時に、君がそんな目をしていたから。ちょっと、ね」 「でも、バッジ、あるんだろ?」 響也は、身体は成歩堂に預けたまま、手を伸ばして襟元につけられた固い感触を確かめる。ふいに目尻が熱くなって、もう片方の手で瞼を覆った。 「…そ、それって、この間君の秋霜烈日章をくっつけたままクリーニングに出しちゃた事、まだ根に持ってるのかい!?」 「はぁあ!?」 思いもかけない言葉に、飛び起きた響也を見つめる成歩堂は、ツンツンとした髪が萎れているのではないかと思う程に、情けない表情に変わっていた。 明らかに動揺し、響也の機嫌を伺うような声色で言葉を続ける。 「あ、そりゃ。服を着たまま求めた僕も悪かったけど…響也くんだってノリノリだったじゃないか…いや、その、言い訳をするつもりはないよ、ないけど…。」 成歩堂と服を着たまま、(バッジを付けていたとすれば検事局で取り調べ中だったはず)昼日中に、飛び散る程に激しいセックスをしたのだと言う事実(おまけに自分も乗り気だった!?)を認めたくなくて口を閉ざした響也に、成歩堂は悪気の無い声で追い討ちをかけた。 「そういうのも好きかな…って」 「……帰れ。」 ゆらりと立ち上がった響也に、成歩堂はだらだらと汗を流し始める。 「きょ「いいから、帰れ。」」 「響也く…」 「…一体なんなんだよ。バッジはあるし、アンタはこんなだし…僕は…ぼく、は!」 目尻に溜まりかけていた涙を堪えれば、必然的に肩が震えた。 堰を切ったように言葉が吐き出される前に、包まれていたのは成歩堂の腕で。ギュッと回される指先は頭と腰に置かれる。ポンポン叩かれる後頭部は、少々力が強いのではないだろうか、手が当たる度にゴツンと成歩堂の鎖骨に当たった。 content/ next |